最小会話法
はじめに
近年、他人との会話を最小限に留める手法が無意識の中で盛んに研究されており、社会に対して少なからず影響を与える程度の域に達したと言える。また、ここ数年の世情も相乗効果をもたらし、その影響たるや言わずもがなである。
目的
本稿では日頃から実践されている手法を明示することにより、何らかの影響を無意識に働きかけることを目的とする。なお、これらの手法を最小会話法と呼ぶことにする。以下が最小会話法の第三原理である。
最小会話法の第三原理
(i) お礼を言う
(ii) 笑顔で受け流す
(iii) 話しかけない
(i) お礼を言う
「お礼を言う」は社会に対して円滑なコミュニケーションを行うために用いられる。一般的に感謝の意を伝える言葉であるが、最小会話法における役割として重要な効果を備えている。以下に例を挙げる。
Case.1
A「これ、もらってください」
B「いえ、とんでもない」
A「いえ、大丈夫ですから」
B「すみません、ありがとうございます」
Case.2
A「これ、もらってください」
B「ありがとうございます」
Case.1ではCase.2に比べ会話数が多く最小で一往復で済む会話を二往復している。最小会話法においては常にCase.2のように一言目にお礼を言う。そこで会話終了である。ここで重要な点は如何なる文脈においても実施することである。あらゆる場面において社会的立場や社会的不利益の可能性は考慮せず実施する。
(ii) 笑顔で受け流す
笑顔、広く言えば表情はコミュニケーションを円滑に進める上で発言内容よりも時として重要である。ここでは表情による効果を示す。
Case.1
A「髪切りました?」
B「そうなんですよ」
A「良いですね」
Case.2
A「髪切りました?」
B「😊」
Case.1では会話が進展する可能性がある。「どこで切ったんですか」や「あなたも切りましたか」のような会話である。後述する第三原理の(iii)に関連するが、最小会話法では基本的に相手から二の手を出させてはならない。ある種の最適な応答は有機的に会話の連鎖を誘発する。Case.2では言葉で応答しないことにより、相手の応答の可能性を無限に拡げる。あるいは複雑にする。人は選択肢を拡げると何もできないものである(※1)。重要な点は、無反応ではないがこれ以上の会話を要求させない凄みを出すことである。
(iii) 話しかけない
ある意味自明である。話しかけなければ会話は発生しない。ここでは、会話を続けさせないという意味も含め広義の意味での「話しかけない」を示す。
Case.1
A「その時計かっこいいですね」
B「あなたの時計もお洒落に見えますが、どこのブランドですか」
A「これは〇〇の〜」
Case.2
A「その時計かっこいいですね」
B「はい」
上記のCase.1は所謂「How are you?」「I'm fine. And you?」「I'm fine too.」といった中学英語の教本の最初に出てくるような会話である。我々はこのような会話をAnd you テンプレートと呼んでいる。最小会話法では最も基本的な流れの一つであるこのテンプレートを回避する。応答内容は「はい」もしくは「いいえ」あるいは前述の第三原理の(ii)「😊」である。なお、「いいえ」で返す場合は相手から二の手が来る可能性が比較的高く、使いこなすためには高度な技術と経験が必要である。
考察
最小会話法が行いやすい心理的な背景として、会話という観点で見なければ良心が傷まない点がある。感謝や笑顔は相手に対して基本的に失礼にならない。また、考え方によっては最小の会話は相手の時間を奪わないという点で有意義ですらある。このように、心理的な負担がかからず比較的容易に実践できることが、この手法を生み出し、繰り返し行われることの一つの要因なのではないかと考える。
関連研究
Web上で「会話を続けない方法」で検索すると「会話を長く続ける方法」や「会話が途切れる人と途切れない人の違い」といった記事が見受けられる。また、人工知能分野では会話(雑談)生成の手法が研究されている。したがって、会話を続かせるための技術の逆を実施すれば本稿と同じ手法に辿り着く可能性はある。例えば第三原理の(iii)について、「相手が聞いてきた事は相手自身が聞かれたがっている事」のようなフレーズを何度か目にした記憶がある。
本稿で述べた手法は無意識化で生成された点に意味がある。実践を試みたのではなく、周囲から微量の影響を受け続けた結果として導出され実践されたものである。
また、雑談に限らなければ、最小限の会話で如何に要件を聞き出すかのような手法は、多種多様な既存研究が存在する。しかしながら、本稿では必要な情報すら不必要という立場であり、独自性や優位性を見出すことができる。
おわりに
他人との会話を最小限に留める手法を最小会話法と呼び明示した。ここ数年の世情に後押しされ、会話は最小限とされる傾向にある。どうか無意識に何かしらの影響を与えることを願う。
脚注
(※1)この考え方は、羽生マジック(将棋)や最近では無量空処(呪術廻戦)を想起させる。
追記
Q. 第三原理って第一と第二はどこにあるのかね?
A. 素で三大原理と間違えました。きっと脳内にプロトタイプとしてありました。含みを持たせたほうが格好良いのでそのままにしておきます。